株式会社 公共経営・社会戦略研究所

Public Management and Social Strategy Institute Inc.

~研究者と実践者とのパートナーシップで新しい社会的価値を創造~


非営利・公共経営研究所のホームページ
明治大学ホームページ

インパクト評価とは何か

1.インパクト評価はプログラム評価の一種  

 近年、世界的に「インパクト評価」への関心が高まる一方、インパクト評価の理論、技法に関する共通の理解は深まっていない。インパクト評価はプログラム評価の一種であり、特に新しい評価手法ではない。プログラム評価とは、「社会的介入プログラムの効果をシステマティックに検証するために社会調査法を利用すること」を意味し、「社会科学の学問系統の概念や技法に依拠し、社会課題の緩和をめざすプログラムの改善と社会活動に有益な知識を提供することを目的とする」Rossi, Lipsey and Freeman 2004: 28, 邦訳 大島・平岡他監訳 2005:29)。ピーター・ロッシらによれば、プログラム評価の主要な目的としてあげられるのは、以下の3点である。

①プログラムの改善
プログラムの改善を導くための情報提供を意図した評価は、形成的評価(formative evaluation)と呼ばれる。
②説明責任(アカウンタビリティ)
プログラムの運営者には、資源を効果的かつ効率的に利用することや、意図された利益を実際に生み出すことが期待される。また納税者の税金といった社会的資源を対人サービスプログラムに投資することは、そのプログラムが社会にとって有益な貢献をするという見込みがある場合に正当化される。
③知識生成
社会科学的な知識基盤への貢献やプログラム革新のための根拠を提供


出所: Rossi,Peter.H., M.W.Lipsey,and H.E. Freeman.(2004) Evaluation: A Systematic Approach 7th edition. London: Sage Publications:34-37. (ピーター・H・ロッシ他著大島巌他監訳『プログラム評価の理論と方法』日本評論社、34-37頁)
2. インパクト評価とは

 ピーター・ロッシらによれば、インパクト評価(impact evaluation or impact assessment)とは、プログラムにより生じた純粋な効果(the net effects of a program)を意味する。すなわち、対象とする社会状態に影響を与えうる他のプロセスや事象から生じた変化を超えて、介入(intervention)によってもたらされた変化である(Rossi,Lipsey and Freeman 2004: 58)。より簡潔にいえば、インパクト評価とは、プログラムや介入と一連のアウトカムとの因果関係を対象になされる評価である(Gertler, Martinez, Premand, Rawlings and Vermeersch 2016: 328)。
 
一方、プログラム評価にはプロセス評価もあるが、プロセス評価とインパクト評価の差異については下記を参照されたい。近年、インパクト評価が過度に強調される傾向になるが、社会的プログラムを改善していくためには、プロセス評価も同様に重要である。

インパクト評価に関するガイダンスはこちらからダウンロードできます(随時更新します)。
プロセス評価 インパクト評価
ロッシ他(2004)
標的集団のサービス受け手に意図されたようにサービスが届いているかどうかを判断するよう設計されたプログラム・モニタリングのひとつ
プログラムアウトカムや、あるプログラムが改善を意図する社会状態への影響に関するクウェスチョンに対して回答を与える評価研究の1つ
国際復興開発銀行(IBRD) (Gertler他)
どのようにプログラムが実施され運営されているかに焦点をあてた評価で、当初のプログラム・デザインに合致しているか否かを検証し、その経緯や運営を記述するもの
プログラムや介入と一連のアウトカムとの間の因果関係(causal link)を対象になされる評価
表 プロセス評価とインパクト評価
3.「反事実」(counterfactual)とは

「反事実」(counterfactual)は、因果連鎖の証明を重視するインパクト評価の核となる鍵概念である。反事実とは、一般に、仮にプログラム(介入)がなかったとした場合に生じた変化を意味する。すなわち、「事実」は原因となる介入があったのだが、因果推論を行うためには、原因となる介入がなかったという「反事実」的状況のもとで何が起こったかを比較しなければならない。反事実とは、中室らによれば、「仮に〇〇をしなかったらどうなっていたか』という、実際には起こらなかった『たら・れば』のシナリオ」(中室・津川 2017: 36)のことを指すのである。
4. プログラムの効率性評価手法:費用便益分析と費用効果分析

 費用便益分析や費用効果分析等も、プログラム評価であり、インパクト評価の一種である。SROI(Social Return on Investment)(社会的投資収益分析)も、インパクト評価の一種であり、費用便益分析を基礎にした評価手法である。いずれも費用対効果に焦点をあて、プログラムの効率性を評価する手法である。

 
費用便益分析(Cost-Benefit Analysis: CBA)は、費用とアウトカムとの関係を通常の金銭用語で評価して表現された、プログラムの経済的効率性を決定する分析手続きである。CBAに対して、費用効果分析(Cost-Effectiveness Analysis: CEA)とは、プログラム効率性を分析する手続きであり、ある介入のアウトカムをそのプログラム費用との関係から得るものである。
 CBAやCEA等の効率性分析は、資源配分の意思決定や社会的介入の意思決定に関する比較可能な情報を提供する。社会的意思決定を支援することで、社会的資源の効率的配分を促進するといういう意義がある。

《参考文献(英語)》
・Boardman,A.E., D.H.Greenberg,A.R. Vining, and D.L. Weimer (2011) Cost-Benefit Analysis: Concepts and Practice. 4th edition. Boston: Prentice Hall. (上記文献の第2版の邦訳:アンソニー.E.ボードマン・デヴィット.H.グリーンバーグ・アイダン.R.ヴァイ二ング・デヴィッド.L.ワイマー著,岸本光永監訳『費用便益分析:公共プロジェクトの評価手法の理論と実践』ピアソン・エデュケーション、2007年)。
・Gertler,P.J.,S,Martinez., P. Premand, L.B.Rawlings, and C.M.J. Vermeersch (2016) Impact Evaluation in Practice. 2nd edition. Washington DC.: the World Bank.
・Rossi,P.H., M.W. Lipsey and H.E.Freeman (2004) Evaluation: A Systematic Approach, Seventh Edition. Sage: London.(邦訳、大島巌・平岡公一・森俊夫・元永拓郎監訳『プログラム評価の理論と方法:システマティックな対人サービス・政策評価の実践ガイド』日本評論社、2005年。)
The SROI network (2012) A guide to Social Return on Investment.
こちらからもダウンロードできます)
Weis, C.H.(1998) Evaluation. Second Edition. Prentice Hall. (邦訳,佐々木亮監修,前川美湖・池田満監訳『入門 評価学:政策・プログラム研究の方法』日本評論社、2014年。)
 
《参考文献(日本語》
・塚本一郎(2017)「インパクト評価とアウトカム公共調達(上)」『経営論集』第64巻
 第1・2・3合併号。
・塚本一郎(2018)「インパクト評価とアウトカム公共調達(中)」『経営論集』第65巻第 
 2・3・4合併号。
・長峰純一(2014)『BASIC 公共政策学11: 費用対効果』ミネルヴァ書房。
・中
室牧子・津川友介(2017)『「原因と結果」の経済学』ダイヤモンド社。
・西村万里子(2012)「社会的プロジェクトの社会的価値評価手法のありかた―社会的投資
 収益(SROI)分析の可能性」塚本一郎・関正雄編著『社会貢献によるビジネス・イノベー
 ション』丸善出版。
・安田節之・渡辺直登(2008)『プログラム評価研究の方法』新曜社。
.